なんだこれ、おかしいだろ。
絶対おかしい。



現在の俺。
記念すべき2×回目の誕生日に可愛い恋人の沖田くんと自宅で二人きり、邪魔者はいない。
というおいしすぎる状況にも関わらず、台所でケーキを作る俺。ソファでジャンプ読んでる沖田くん。


おかしいだろ。
うん、おかしすぎる。

何で俺、自分の誕生日に自分のために自分でケーキ作ってんだ。


どうにも納得できない思いにぶち当たったので、沖田くんを呼んで疑問をぶつけてみることにする。
沖田くんは素直に台所に来てくれた。
ちょい安心。これでシカトされたら銀さん泣いちゃうとこだったよ。


「なあ沖田くん。俺なんで自分の誕生日に自分でケーキつくってんの?」

可愛いあの子は表情ひとつ変えずに即答してくれた。

「旦那はケーキ食べたくないんですかィ?」

ちょ、小首傾げて上目遣いかよ。最強だなこの野郎。
内心ドキドキしつつ。
確かにケーキ食べたいとは言ったけどね沖田くん。
だけどそれは沖田くんが「誕生日に何が欲しいですかィ?」って聞いてきたから、まさかこの子が俺の誕生日知ってるとは思わないし、ましてや例え知っていても祝ってくれる気があるとは予想もしてなかったから、舞い上がって冗談交じりで(実際はかなり本気だったんだけど)「沖田くんが欲しいな」って答えたら無言でバズーカ零距離で照準合わしてくるもんだから慌てて取り消して導き出した答えなのであって。
それがまさか自分で作る羽目になるとは微塵も思わなかった。

だって誕生日だよ?何回も言うけど。普通は作ってもらう立場でしょーが。

「何言ってんですか。あんた自分で手作りケーキがいいっつったんでしょ。」

まあ、言ったかな。
ケーキ食いたいって言った俺に対して沖田くんが「そんなんでいいんですか?」っつーから、なら「手作りだったら嬉しいね」とかなんとか口走った記憶はある。
言わずもがな、沖田くんの手作りっていう意味でだけど。

「手作りっつーからにはそこらで買ってくるわけにはいかねぇでしょ。したら旦那が作るしかねーじゃねーですか」

さも当たり前のように答える沖田くんには、俺の隠された(つーか普通に考えれば丸解りの)願望は全く届いていなかったらしい。
銀さんため息吐いちゃうよ。

それでも一縷の望みを込めて聞いてみる。

「沖田くんが作ってくれるって選択肢はないのかな?」

「なんで俺が?」

あ、なんか涙出そ。
俺がなんで消沈してるのかわかっていない沖田くんは、「旦那ァ?」なんつって心配そうに覗き込んでくる。ああくそ、可愛いだけに文句も言えやしねぇ。

その後も沖田くんは手伝ってくれることもなく。ジャンプを読みに戻っちまうこともなかったが、これといった会話も交わさないままケーキは完成に近づいていった。

「完成!」

我ながら見事な出来栄えだなぁオイ。
結局全部自分で作っちまったよ。
せめて生クリームだけでも沖田くんに作ってもらいたかったよなぁ。したら飛び散った生クリームを頬につけた沖田くんとか拝めたかもしれないのに。超絶色っぽい沖田くんを食べちゃったりできたかもしれないのに。

叶わなかった妄想に浸っていた俺を現実に引き戻したのは、沖田くんの歓声だった。

「すげぇ旦那!プロ級じゃねーですか」
「え、そうかな」

大きなおめめをくりくりさせて銀さん特製ケーキに見入る沖田くんに、沈んでいた心も湧き立ってくる。
「うまそー」とか「きれー」とか、そこまで感心されると銀さんかなり天狗になっちまうよ。

「こんなすげぇ腕持ってんのになんでケーキ屋やんねぇの?フリーターやてねぇで就職すりゃいいのに」
「いやフリーターじゃねぇから。これでも銀さん万事屋の社長だから。代表取締役だから」
「従業員にまともな給料払えねぇなんて大した社長さんだァ」
「あ、痛っ!痛ぇよそれ」

的確に触れて欲しくない部分をえぐってくる、さすがはサド王子の異名をとるだけのことはある。まあ俺には敵わないけどな。

しかしやっぱり誉めてもらえるのは嬉しいもんで。
人間てのはうまくできてるもんだ。
俺の作ったケーキに釘付けになって子どもみたいにはしゃいでる沖田くんを見ているだけでなんだか満ち足りた気分になってくる。

「すっげうまそ!ねぇ、食べましょーぜ旦那」

一体これは誰の誕生ケーキなんだって、そんな細かいことを言う気はもはやなくなっていた。

沖田くんに持ってきてもらった皿にカットしたケーキを取り分ける。
紅茶を淹れて居間に運んでいけば、ソファで首を長くして待っている可愛い子。こんなところは実年齢よりもずっと幼く見えて、この子を可愛がる保護者たちの気持ちがちょっとばかりわかったりしてくる。なんつーか、微笑ましいというかなでなでしたいようなそんな気持ち。
柄にもないけどな。だって心の底ではいつだって抱きしめて誰にも渡したくないって思ってるのだから。

「旦那、早く早く!」

急かされてソファに座れば、向かいにいた沖田くんがそわそわと隣に移動してきた。
おや?と思いながら横にずれてやると、十分なスペースがあるにも関わらずぴたりと肩が触れるほど近くによってくる。

珍しい。
沖田くんが自分からくっついてくるなんて。
いつもはこっちからベタベタしていくことはあっても、嫌がりはしないものの沖田くんが積極的に反応を返してくれることは稀だ。

不思議に思いつつも、着物ごしに感じる沖田くんの感触にゆるむ口は抑えられない。
これってもしかして据え膳か?
ぎゅっと握られた沖田くんの右手はその膝の上にあって、俺は左手をすこし動かせばすぐに触れられる位置にある。

自分のものより一回り小さなその手にあとすこしで触れる、というところで、沖田くんが不意に振り向いた。

「旦那ァ」

「なっななな、何かな沖田くん?」

慌てて左手を引っ込める。いや別に後ろめたいことをしているわけじゃないんだからびくつく必要はないのだが。

「ケーキ、食べさしてあげまさァ」

「は?」

思わぬ沖田くんの申し出に、焦った頭では即座に理解することが出来なくて、マヌケな声しか出てこない。

今なんつった?この子なんつった?
かなりの爆弾発言かましてなかった?

半分固まった俺を気にするでもなく、沖田くんはいつも通りマイペース。でもちょっとだけ白い頬に赤みが差しているように見えるのは俺の錯覚だろうか。

沖田くんは自分の分のケーキからフォークで一口分を取って俺の口元に持ってくる。
そしてその口から飛び出したのは、「はい旦那、あーん」という、夢ですら聞いたことのなかった台詞。

あまりのことに返事も出来なかった。
ちょ、これって男の浪漫じゃねーの?

軽く感動に浸りながらも無意識に口を開けていたらしい。ふわりと口の中に広がる甘いクリームと柔らかいスポンジの感触。

「美味い?」
「美味い」

期待を込めた沖田くんに素直な感想を告げれば、ぱぁっと広がる、そう、まさに花のような笑顔。
心底嬉しそうに、ちょっと照れくさそうに浮かんだ笑顔は、俺が今まで見た中で一番綺麗な、沖田くんの心からの笑顔だった。

それがあまりにも可愛すぎて、眩しすぎて、心臓がバクバクと鳴り出して果ては顔中が熱くなってきやがった。
ああやばい。
今すぐこの子を抱きしめたい。

年甲斐もなく舞い上がっちまってる俺の心中なんて気付きもしない沖田くんは、「あ、マジで美味い」とか言って今度は自分の舌でケーキを味を確かめている。

てか、それ間接キスじゃねーか!!

別に今までそういう事がなかったとはいわない。もちろんキスだってしたことはある。
が、それはそれ、これはこれだ。

何この子!どんだけ銀さん煽れば気が済むんですか。

「もー無理!沖田くん!」
「わっ、ちょ、旦那ァ?」

すぐ隣でケーキに舌鼓をうつ沖田くんを抱きしめる。
今日は私服だから、いつもの堅っ苦しい隊服と違って、沖田くんの体の感触や温もりが感じられる。ああ、やっぱこうじゃねーとな。

「だんな…?」
「うん、ちょっとこのままで。な」

壊してしまわないように、逃してしまわないように、優しく強く。腕の中の温もりを全身で。

大人しくギュッとされててくれた沖田くんは、そっと抱きしめ返してくれた。

そして一言。


「誕生日、おめでとうございまさァ。


…銀時さん」





ああなんて、最高のプレゼント。




present for you


「やっぱり誕生日プレゼントは沖田くんってことで」
「好きにしなせェ」









2008年10月10日
銀さんお誕生日おめでとう!