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※『last letter』余談。
「銀さんにお願いがあります」
病室よりも白い顔に微笑を浮かべてミツバが紡いだ言葉。
今でも鮮明に思い出すことが出来る。
柔らかい微笑みの中、真摯な思いのこもった強い瞳がやけに印象的だった。
暖かい日の光に照らされて淡く輝き、まるで露となって消えてしまいそうな儚さの中、ミツバの静かなしかし強い声が響いた。
「これを、あの子に届けていただきたいんです」
白い手には一通の手紙。
「あの子…沖田くんに届ければいいんだな」
「ええ。あの子の、そーちゃんのお誕生日に」
「誕生日?」
「そう。七夕様の翌日よ。覚えやすいでしょう」
「いや、そーじゃなくって…」
「それまで銀さんに預かってもらえないかしら」
「…アンタ」
ミツバは銀時の目を真っ直ぐ見つめ、ゆっくりと頭を下げた。
「お願いします…どうか」
「……」
彼女の弟によく似た薄茶色の髪の毛が、僅かに開いた窓から吹き込む風に揺れてサラサラと靡いていた。
手紙を握る細い指は小刻みに震えている。
強張った肩は折れてしまうのではないかと思うほど薄い。
儚い印象ばかりの彼女の、しかし頭を下げる直前に見た瞳は強く固い決意を秘めてこちらを見据えていた。
その瞳は何が映っているのだろうか。
窺い知ることは出来ない。
「私には、もう…そーちゃんにしてあげられることはこれくらいしかないから」
ひとつため息を吐くと、頭を下げたままの震える手から手紙を受け取った。
彼女はもう決めてしまっている。決意と覚悟を。
そしてそれはそう遠くない未来にやってくるのだろう。
自分には何もできないのだ。彼女の依頼を受ける以外は。
「ほんっと、アンタらそっくりな」
人の話を聞かないところとか、頑固なところとか、難題吹っかけてくるところとか。
弱そうに見えて強いところとか。
俺を信頼しすぎなところとか。
ほんとそっくりだ。
「仕方ねぇ。その依頼、受けてやるよ」
「…銀さん!」
了承の言葉にはようやく顔を上げたミツバは、初めてみる表情をしていた。
「ありがとう…ほんとうに、ありがとうございます」
その顔に浮かんでいたのは、いつもの柔らかな微笑みじゃなくて、子供のような笑顔。
ああ、ほんと、愛されてるね。
総一郎くん。
こんなに大切に思われて。
君、幸せ者だよ?
終。
沖誕文『last letter』より。
銀さんとミツバさんがお話しているのが好き。
(08年7月8日日記掲載文)