ちょこくれ
ちょこくれ



(街中で鉢合わせした銀沖的シチュエーションで)



「チョコちょうだい」

「は?」

「チョコ」

「はぁ、チョコですか…んじゃ、これあげまさァ

「いや、それ沖田くんがもらったやつじゃねーの?」

「なんか歩いてたらくれたんですけど」

「すげーじゃん。紙袋山盛り」

「これ全部チョコだっつってましたよ。旦那が食いてぇならあげまさァ」

「いやいや、沖田くんが食べなきゃ駄目でしょーが」

「こんなに食えねぇですよ。鼻血出ちまわァ」

「俺はそのくらいじゃ鼻血でないけど。つか、鼻血出してる沖田くんてちょっと見てみたいかも」

「俺の鼻血姿のどこに興味をそそられるのか理解できないんですけど。見下して嘲笑うんですかィ?」

「いやいやいや、ただ単に珍しいもの見たさだからね。まあちょっとS心刺激されるってーのもあるかもしんねーけど、まあそれはおいといて」

「はぁ?つーか、鼻血出ねーんだったらやっぱ旦那がもらってくだせェよ」

「でも銀さん沖田くんからのチョコが欲しいんだけど」

「だからあげますって」

「いやいやいやいや、だーかーらーっ!」

「?…何が問題なんで?」

「沖田くんさ、今日が何の日が知ってる?」

「今日ですかィ?なんかありましたっけ?」

「ありありなんですけどー」

「今日…えと、何日でしたっけ。2月の…じゅう…よん?」

「そう!2月14日!今日は何の日ですか?」

「……ああ!なるほど。そういや今日バレンタインだ」

「そう、バレンタインです!」

「どーりでチョコばっか渡されると思った」

「どんだけ鈍感だよ。こんなにモテるのに」

「いや、モテねぇですよ」

「それほんとにモテねぇやつが聞いたらもれなく闇討ちに遭うからな」

「ああ、じゃ気をつけねーと。旦那に聞かれちまった」

「うわぁ、マジで襲うぞコノヤロー」

「返り討ちにしてやらァ」

「ほんっとに、なんつー奴だよ。だいたい、こんだけもらって気づかないって有り得ねぇだろ。なんだよ、何日も前からこの日を思ってドキドキしてた俺ってどんだけ虚しいんだよどんだけ可哀想な奴だよ」

「だってバレンタインつったら女が好きな男にチョコあげる日なんでしょう。俺にゃ関係ねぇし」

「そんだけもらっといて言う台詞じゃねーだろ」

「はぁ。でも無言でチョコだけ渡されてもねィ。ほとんどの奴ァ名乗りすらしねーんですぜ。何事かと思うじゃねーですか」

「まあ、それについちゃ一理あると思うけどな」

「でしょう」

「しっかしさー。ここにこんなに糖分欲してる人間がいるってーのに、世の中不公平だよな全くよー。女どももちょっとくらい銀さんにも恵んでくれたっていいと思わねぇ?」

「だからあげるっつってんのに」

「はー。それ渡した子たちも不憫だよね。渡し方に問題があるとはいえ全然気持ち伝わってねーんだもん。銀さん同情しちゃうよ。でもまぁ、渡した子たちには悪いけど、沖田くんはもう俺のモンだし、譲るつもりねーし。そのチョコは銀さんがもらっとくわ」

「よくわかんねーけど、もらってくれるのは有り難ぇや。それより、いつから俺は旦那のモンになったんですか」

「お付き合いを始めてからに決まってんじゃん」

「したら旦那だって俺のモンてことになりやすが」

「何を今更」

「……そー、だったん、ですか」

「そーだよー。どしたの?変な顔して」

「いや…なんか、ちょっとびっくりして」

「あれ、もしかしてテレてる?」

「な、ななな何言ってんですかィ!あっこれ!チョコ重てぇからさっさと持ってくだせェっ」

「あ、ああ。ありがと」

「いえ、もともと貰いモンだし」

「おお、そうだった。沖田くん!」

「はい?」

「チョコちょうだい」

「……今あげやしたけど」

「だーかーら!銀さんは沖田くんのチョコが欲しいんだってーの。今もらったのはただの糖分。バレンタインなんだから好きな子からのチョコじゃなきゃ意味ねーだろ。だったら沖田くんのチョコじゃなきゃ意味ねーのよ。わかるか?」

「……す、き?」

「そう、好きな子」

「あの、でも俺ァ男ですが」

「あのな、元来バレンタインってーのは好きな人に気持ちを伝える日なんだよ。それがなんでか知んねーけどここじゃ女から男にってなっちまってるけど。ホントは男女問わずの行事だって。今朝結野アナが言ってた」

「……」

「沖田くん?」

「なら俺もチョコ欲しいんですけど」

「ぁあ?」

「男女問わず、好きな人にチョコもらうのに意味があんでしょ。なら俺も旦那のチョコ欲しい」

「……」

「名前も知らねぇ女からもらったチョコはいらねぇけど、旦那のチョコは欲しい」

「……」

「旦那?」

「……なんか、改めて言われるとテレるもんだな」

「何がですかィ?」

「いや、『好きな人』って…」

「……!い、今更だろィ!旦那だって連呼してたじゃねーですか!」

「ぷっ、沖田くん顔真っ赤。ちょー可愛い」

「か、可愛いとか言うなィ!アンタだって人のこと言えねぇ顔色してますからね」

「マジでか」

「ちょー可愛いですぜ」

「……」

「……」

「…あれだ、うん。行くか。チョコ買いに」

「そうですねィ。一緒に行きやしょうか」




二人で贈り合いっこするのも、たまにはいいんじゃない?
手を繋いでさ。








おわり。
銀沖はチョコあげっこしてたらいいと思う。
(09年2月14日日記掲載文)