- ぷれぜんと
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今日は7月8日。
俺の誕生日だ。
だからって俺的には特別なことは何もない、普段と変わらない日。
しかし周囲はそういう意識はないらしく、朝からいろんな奴におめでとうって言われたり、プレゼントもらったりした。
ありがたいが、わらわらと寄ってくる人並みにいい加減うざったくなってきたから、屋上に逃げてきて今に至る。
ちなみに、今日は雲ひとつない晴天。
真昼間のこの時間は影なんてないに等しく、遠慮もへったくれもない強すぎる太陽の光が頭上に降り注いでいる…はずだった。
少なくとも、数分前まではそうだった。
だが、今俺は直射日光どころか、太陽の光すら浴びていない。
何故かと言えば。
「う〜ん、うまく結べないヨ。お前ちょっとトリートメント使いすぎアルよ。どんだけサラサラに憧れてんだヨ。女の敵ネ!いやむしろ銀ちゃん先生の敵ネ!」
俺のすぐ後ろで膝立ちになった奴が、日傘を肩に引っ掛けて日陰を作っているから。
「いや、別にトリートメントとかしてねーし」
頭上から降ってくる声に思わず答える。
あ、ちょっとツッコミどころ間違ったかもしんねぇ。
「マジでか!?」
感心したような驚きの声を上げた奴――同じクラスの留学生の神楽は、それでも俺の髪をいじる手をとめない。
突然屋上に現れて背後に居座ったかと思うと、「大人しくしてるヨロシ」の一言だけをかけて頭上でなにやらごそごそとやりだしたのだ。
「不公平アル、私なんてトリートメントしなきゃ頭爆発ヨ」とかなんとか恨み節をぼそぼそと零しながらも、いつものように突っかかってくることはない。
コイツとは喧嘩ばかりで、それは口だったり拳だったり遊びだったり運動だったり、色々あるけど、とにかく張り合ってばっかりで、こんな風に俺の側で大人しくしているチャイナは本当に珍しくてなんだか調子が狂う。
そもそも誰かに触られるのってあんま好きじゃねぇし、それが髪なら尚更な俺が、こんなにべたべた髪をいじくられて大人しくしてるっていうのが、自分で言うのもなんだが信じられないのだが。
コイツって手あったけぇのなとか、指細ェとか、時折つむじや首筋に吹きかかる息がくすぐってぇとか、おかしな方に意識が行ってしまいそうになる。
「テメーはさっきから何してんでィ、チャイナ」
平静を保つために何でもいいからと尋ねたのは、チャイナが来てからずっと気になっていたことだった。
「プレゼントネ」
「は?」
当たり前のように答えるチャイナに、意味がわからなくて間抜けな声が出る。
質問の答えになってなくね?
「だから、プレゼント作ってるアル」
「…あの、よくワカラナイんですが神楽サン?」
プレゼント作るって言うのは、そりゃアレか、今俺の頭いじってんのと関係あんのか。
「お前今日誕生日なんダロ。誕生日にはプレゼントたくさんもらえるって聞いたアル。お前は馬鹿だからいろんなヤツに貢がれてホイホイついてっちゃいそうだから捕まえとくのヨ」
……それって嫉妬?独占欲?ありえねぇ。
「お前は私の誕生日にもらうのヨ。だから今からプレゼントにしてキープしとくアル」
信じられないような返答に、混乱する。
ちょっと待てよ、展開が急すぎて俺ついていけねぇんだけど。
「…えーと…。そりゃあつまり、プレゼントってーのは俺自身で、しかも俺はお前ェにやるプレゼントってことかい」
「さっきからそういってるアル」
「逆じゃね?それって逆だろィ。今日って俺の誕生日だったような気がすんだけど…」
普通は誕生日の奴がプレゼントもらうんだろーが。
なんで今日誕生日の俺がお前のプレゼントになんなきゃならねーんだ。
「お前自分の誕生日も忘れたアルか?馬鹿でサドって最悪アル」
「おかしいのは俺じゃねーよな。テメーだよな。馬鹿なのもテメーだよな」
「いいから黙ってプレゼントになってればいいのヨ」
理不尽ともいえる強制に、不思議と反感も嫌悪も湧いてこないのは何故だろう。
訳の分からない論理に納得なんてしてないけど、こいつが突拍子もないことも、常識がないことも今更だ。
「あー…――まぁ別にいいけど…」
チャイナの思い通りになるのはいただけないが、だって仕方ねぇだろ、嫌じゃねーんだ。
「ヨシ!できたアル!ほら鏡見ろヨ!お前似合うネ!」
満足げにチャイナが差し出してきた鏡を見れば、頭上にちょこんと結ばれた赤いリボン。
結ばれた前髪が空に向かっていて、マヌケなことこの上ない。
でも、ちょっと曲がった不恰好なちょうちょ結びとか、ふらふらのゆるい結び目とか、チャイナが苦心して仕上げたものだと思えば、不思議と頬が緩んでくる。
「ちっとも嬉しくねーけどな」
苦笑とともに感想を言ってやれば、チャイナは鏡に映った俺の笑顔を見たのか、嬉しそうに笑っている。
お前にやるプレゼントだ、ちょっとばかし不恰好なくらいが丁度いいかもしんねぇ。
「そーだ、上向くアル」
「何?」
言われたとおりに上を向く。
すると、赤い日傘をさえぎるように近づいてくる顔。
ちゅ。
「……な、に」
反応を起こす前に振ってきた温かい感触に、一瞬で頭の中が真っ白になる。
なんだ、今のは。
「お誕生日おめでとネ、そーご」
至近距離で、満面の笑みで告げられた祝いの言葉に、不覚にも顔中が熱くなるのを感じた。
「……ども」
フリーズした脳みそが働かない。
お前、不意打ち過ぎだろ。
どうしてくれるんだクソチャイナめ、お前のせいで俺は…。
「私の誕生日まで誰のものにもなるんじゃないヨ」
偉そうに突きつけられた要求。
最後までこいつの思い通りになるのなんて真っ平ごめんだ。
言い返さなきゃ俺じゃない。
必死で取り繕って、でもそんな素振りは一切見せないで。
いつまでも余裕ぶっこいてられると思うなよ。
「お前ェが俺のものになるんだったら考えといてやらァ」
「おう!そしたら今度はお口にちゅーネ」
てめーの誕生日、覚えてやがれ。
まるごと全部もらってやっかんな!
今はまだ、まぶたに降ってきた温もりで精一杯だけど…。
おわり。
ハピバそーご!…でしたv
↓の日記にもとになったイラストがあります。
(2007年7月8日日記掲載+加筆)