手作りですから
手作りですから



季節は夏。ここ銀魂高校は夏休み真っ最中である。
普段は騒がしい3年Z組の教室もがらりとしているはず…なのだが、問題児だらけのZ組とは言え彼らも受験生。希望参加の夏期補習でもほとんどの生徒が受講しているので、補習日にはいつもとあまり変わりばえのしない面々が教室に集まっていた。

冷房のない教室は蒸し暑く息苦しい。
永遠に続くかのような長い苦痛の時間に絶え、待ちに待った昼休み。

「高杉ィ、飯食おうぜ」
「おー」

沖田の誘いに気のない返事をしつつ、高杉は内心そわそわと落ち着かなかった。
昨日の会話が思い出される。

『高杉、明日の昼飯俺つくるから』
『は?』
『だから持ってこないでくだせぇよ』
『あ、あぁ…』
『ところで、アンタの好きなケーキなんですかィ?』

――こんな会話があれば誰だって期待するだろう。
わざわざ面白くもない夏期補習に顔を出しているのはこうして沖田と顔を会わせられるからに他ならないのだし。

屋上は今日のような雲ひとつない晴天の中では蒸し風呂状態になるため、仕方なく教室の隅の高杉の机で昼食をとることにする。
隣の席から勝手に拝借した椅子に座った沖田は、あまりお目にかかれないような機嫌のよい顔をしていた。
相対する高杉も自然と頬が緩む。

「ほい。苦労したんですぜ」

沖田が持参した真新しい弁当箱(と思われるもの)が年季の入った机に置かれる。
それをことさらにゆっくりと開いていく沖田の白い手元を見つめ、期待に高ぶる高杉の目に飛び込んできたものは――。


「……何だこれ」
「ケーキ」
「いやそりゃわかるけど。なんでケーキ?」
「え、だって誕生日だろ」
「え、昼飯じゃねーの?」
「昼飯だけど」
「だってケーキじゃん」
「うん。誕生日だから」
「いや、飯は?」
「だからケーキ」
「は?」
「誕生日じゃねーの?」
「そうだけど」
「だから、昨日きいただろィ。好きなケーキ」
「聞かれたな」
「ショートケーキ好きだっつったから作ったんですけど」
「マジでか。作ったのこれ」
「うん。坂田せんせに教わりながらだけど」
「ぁあ!?あのクソ教師かよ。なんもされなかっただろうな」
「なんもってなんでさ」
「なにってなにだろ」
「わけわかんね。つか、早く食べなせぇ」
「俺腹減ってるんだけど」
「いらねぇなら俺が食う」
「いらねーとは言ってねーだろ」
「ならさっさと食えや」
「しかたねぇな」

すきっ腹に甘いものは正直勘弁したいところだが、沖田の手作りケーキに惹かれるのも事実。(たとえ銀八の力を借りたとしても。あの沖田が俺のために作ったケーキには違いないのだ)

「心して味わいなせェ」

珍しく満面の笑みを浮かべた沖田にみとれつつ、高杉は1ホールのどでかいケーキに戦いを挑んだ。

「…美味い…」
「でしょ!すげー頑張ったんですぜ俺。」

思った以上に美味しい手作りケーキに、高杉の箸も進んでいく。

が、それもはじめのうち。いくらうまいケーキでも、特別な甘党でもない高杉が味わって食べられる量には限度がある。
だんだんと口に運ぶペースが落ちることに、高杉が食べる様子をじーっと見ていた沖田が首を傾げる。
「どうしたんでィ?」
「…お前ェはケーキ食わねぇのかよ」
「だってそれ高杉のだもん。俺が食べちゃ意味ねぇでしょ」
「そんなこと…」
「それに、俺、高杉に全部食べてもらいてぇんです。…駄目?」

微かに頬を染め、上目使いで言われては断れるわけがない。

「…食う」
「さすが高杉!じゃ、俺は弁当でも食ってまさァ」
「弁当持ってきてんのかよ!」

盛大に突っ込むも、沖田はどこ吹く風。

だんだんと青ざめていく高杉に一言。

「お誕生日おめでとうございまさァ!」



数時間後、保健室に駆け込む高杉の姿があったとかなかったとか…。









おわる。
高杉さんへ愛を込めてv
厳密には3Zじゃなくてただの学パロかもしれない。
(08年8月10日日記掲載文に冒頭だけ加筆)