++久遠の時、あなたを想う++

 

 

 

私があなたを失ったのは、私が無力な幼子であった頃。

その頃、あなたは私の世界のほとんどを占めていて、私の小さな世界の中で、あなたは誰よりも輝き、誰よりも大きな存在でした。
あなたは私の何十倍もの永い時を生きていて、未来を紡ぐ糸がどれだけ残されているか、あなた自身はよく理解していたようではあったけれど、幼い私はそんなことには全く気付かず、あたかもあなたが永遠の人であるかのように思っていたのです。
未熟な自分を導いてくれる、唯一の人。
私の全て。
誰よりも、何よりも。
あなたを愛する心は、私の全てでした。
あなたの存在が、私の全てでした。

あの日のことを、私は一生忘れないでしょう。

「ムウ、お前を愛しているよ」

大きな温かい手で私を抱きしめ、優しい声で紡がれた言葉。

「ジャミールへ行きなさい。
時が来るまで、決して聖域に近づいてはならない。
私の可愛いムウ。
愛しい子よ」

私の全てを支配するあなたの言葉に、どうして逆らうことができようか。
私はあなたの言うとおり、聖域を離れ、あなたとの思い出の詰まったジャミールへ帰りました。

いつもよりも蒼白な肌のあなたを見ても、いつもより強く抱きしめられたことに気付いても、いつもよりゆっくりと紡がれた言葉、そこに架けられた想いの強さに心がはちきれそうになっても、私には、あなたの望むことしかできなかったのです。

あなたの小宇宙を感じることができなくなっても。
あなたという人がいなくなってしまっても。

その言葉は永遠に私を縛り付けて離さない。

たとえ誰も、あなたの存在に気付かなくても。
誰も、あなたの存在を忘れてしまっても。

私があなたを忘れることはありません。
どんなに時が流れても、あなたの存在は私の全てなのですから。

それは変わることのない永遠。
無常に時は流れるけれど、永遠というものも確かに存在するのでしょう。
幼い頃、あなたに対して抱いた私の幻想のように、私の中では、あなたは今も変わらずに生きているのです。
これは、確かな永遠。
私というものは、時の流れとともに朽ちていくに過ぎない卑小な存在。
それでも、たとえ朽ち果てようとも、あなたという存在は永遠に私の全てで在り続けるのです。

だから。

シオン――。

もう一度、私を呼んでください。

その愛しい声で。
優しい眼差しで。
温かい腕で。

私を抱きしめてください。

それは、叶わない願い。
あなたが永遠であり続けるだけ、永遠に叶わない想い。

それでも、願う。

あなたの声に呼ばれたい。
あなたの腕に抱かれたい。
あなたの温もりを感じたい。

今日も私は想い続ける。
絶望の果てで、あなたを、私を支配する存在を、想い続ける。

想いはどれだけ強ければ、天に届くのでしょうね。
届かない想いは、時に絶望を、時に喜びを私に与える続けるでしょう。

この心の空虚は、決して埋まることはありません。
私は永遠にあなたに捕らわれたまま、生き続けるのです。

あなたは、私の全てなのだから。

ねえ、シオン―――。

 

 

 

 

 

-end-

 

 

 

 

 

 

<2002年11月>