- BATTLE CRY
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「―――っていう、夢を見たんだけど、どう思う?」
「どうって……」
馴染みの団子屋のベンチに並んでもさもさと三色団子を食べていた沖田くんは、その手を休めて呆れた顔をした。
今朝の夢は嫌にリアルでとんでもないものだった。おかげで起き抜けの気分は最悪。夢だか現実だかわからなくなって、早朝だってことも忘れて沖田くんの携帯に電話してみたら、寝起きだったみたいでめちゃくちゃ低いテンションだったけど、ちゃんと沖田くんが出てくれて、携帯なんだから当たり前なんだけど、その当たり前に思わず涙が出そうになった。
夢見て泣くなんて、どんなガキだよ。
とりあえず、今日の巡回ルートを聞き出して、街中で沖田くんとっ捕まえて抱きしめて匂い嗅いでチューして、びっくりしてる顔があんまりにも可愛かったから、もう一回チューしてギュッと抱きしめておいた。思うが侭に。
そしてようやく安堵したところで、腹の虫が呼びかけてきたもんだから団子屋で休憩して今に至る。
あんな夢見たのも糖分が足りてなかったせいだ、多分。
腹いせに夢の内容をつらつらと語ったやった。もちろん、語って聞かせたのは俺に都合の良いように端折った流れ的なモノだけだけど。あんなグダグダな内心なんて話せっか。
夢の中とはいえこんだけ人を絶望させた責任はとってもらわないと気がすまない。今日はお持ち帰り決定だなこれ。
「途中で起きちまったから、手紙になんて書いてあったか気になってさ。ねぇ、なんて書いてあったの?」
「知りやせんよ。アンタの妄想内の俺の考えてることなんて知るかィ」
「いや、違ェよ。妄想じゃなくて夢だから。ここ重要ね」
「同じことでしょう。つーか、人を勝手に殺さねぇでくだせェ」
「んなこと言われてもなァ。俺だって好きであんな夢見たんじゃねぇもの」
「どうだかなァ。にしても、随分と具体的な夢を見たもんですねぇ」
「ほんとだよ、お陰でどんだけ……」
「…どんだけ?」
「――なんでもねぇよ」
いらないことまで言いそうになって慌てて口をつぐむが、遅かった。沖田くんは食べ終わった団子の串を指や口で遊ばせながら聞いてくる。ニヤリと、人の悪い笑みを浮かべて。
うわ、こいつ人の反応見て楽しんでるし。流石ドS王子。
「そんなに哀しかったんですかィ?旦那泣いてくれた?」
「……」
こっちは未だあの夢から完全に立ち直れていないせいで、いつものようにうまく言い返す余裕もないっつーにのに。
それどころか、思わず夢の中で感じた遣り切れない、どうしようもない想いが蘇ってきやがった。ほんのちょっとだけど。
でもそれは、ちょっとだけでもかなりのダメージがあったようで、込み上げるものを抑えるだけでいっぱいいっぱい。言葉を継ぐことができなかった。
急に黙った俺を不思議そうに沖田くんが見る。
「……旦那?」
さっきのニヤリ笑いは影を潜め、無表情に近い顔。でも、内心は戸惑ってるんだろうなっていうのがわかった。そのくらいの付き合いはしているつもりだから。
そういう、動いている、生きている沖田くんが目の前にいるのが、今の俺にはたまらなかった。
「だんな……泣かないで……」
「……泣いてねぇよ」
「うん。でも、泣いてるでしょう」
沖田くんの両手が頬に触れた。細くてあまり大きくないけど、骨ばっていて所々剣胼胝で硬くなった手。沖田くんの手。ふわりと温もりが頬を包み込む。
「アンタのことだから、どうせ俺が死んでも泣かなかったんでしょ。泣けなかったんでしょ。だから今泣いてんでしょ」
抑揚の少ない静かな声が耳に染み込むように入ってくる。
あたたかかった。
胸がいっぱいだった。
「俺、生きてますぜ」
「……知ってる」
「確かに俺はいつ死ぬかわかんねェ仕事してます。でもそれは旦那だってそうだ。誰だって、先のことはわかんねぇ。だから、俺はそれなりの覚悟して生きてますし、後悔しねぇように思うが侭に生きてます」
そこで一度言葉を止めて、沖田くんは確認するように俺の目を見て、続けた。
「だから、だからね。さっきの返答。俺は遺書なんて書いたりしやせん。死んでまでアンタに言いたい言葉なんてねェ」
澄んだ双眸が見つめてくる。痛いくらいの真っ直ぐな眼差しがフッと優しげに微笑んで、そしてすぐに悪戯じみた笑いに変わった。
「つーことで、今言いたいこと、したいことをしやすね」
言うが早いか、沖田くんは頬に触れていた手を後頭部に回し、俺の頭を引き寄せて勢いよく唇を合わせてきた。
「あたっ」
勢いがつきすぎて、ぶっちゅー通り越してガツンて効果音がしそうな色気のないキス。気のせいじゃなく前歯が当たったマジで。
何すんだって文句つけてやろうと思ったら、思いの他真剣な表情にぶち当たって、思わず息を呑んだ。
「耳の穴かっぽじってよーく聞きなせェ」
おでことおでこがくっついたまま、至近距離で沖田くんが言う。
「カビが生えそうなくらいウエットな思考してウジウジしてる旦那は正直ちょっとウザイですが、でも俺はそんな旦那も好きですぜ。だってそれもこれも俺の溢れんばかりの魅力に魅せられちまったせいですもんね。俺のこと好きすぎてどうしようもなくなっちまった哀れな野郎なんですもんね。仕方ねぇからその愛を俺が受け止めてやらァ。かかってきやがれ」
「………」
絶句。
まさしく絶句だ。ここまで言葉がどっかに飛んでいったのは初めてだ。
お陰で沖田くん曰くウエットな思考も一緒にどっかに飛んでいったよ。
至近距離で告げられた思いの丈に、血流は上昇するし、ニヤケるし、恥ずかしいし、嬉しいし、なんか熱いし、恥ずかしいし、ニヤケるしで、わけわかんなくなって両手で必死で顔を隠した。
しかもこれだとなんか俺が沖田くんにベタ惚れみたいじゃん。十も年下の男の子にメロメロで首っ丈になった挙句、死なないでって泣きついてる痛いオッサンじゃん。いやまあ夢の中では実際そんな感じだったけど……でもそれはあくまで夢であってね、現実は違うんだよ――って実際否定できないから否定しないけどさ。その上そのコに慰められてるし。年上の面目丸つぶれだっつーの。
全く、なんだこれ、とんでもねぇ愛の告白じゃねぇか。
「……お前のはソレ、フリーダム過ぎだろ」
ここ公共の場だぞコノヤロー。周囲の視線が痛くてしょうがねぇ。
「なんでィ、折角宣戦布告してやったのに。張り合いねぇなァ。だいたいね、俺が近藤さん苦しませるような死に方するわけないでしょ。雑草のごとくしぶとく生き抜いてやりまさァ」
宣戦布告って、いつの間に愛の告白合戦になったんだ。つかむしろプロポーズじゃねぇか。つかよく聞いてみたらなんか俺より近藤のために生きます的なこと言ってんだけどこの子。今俺に告白してくれてたんじゃないの?一体どっちなのよ。俺とゴリラとどっちが大切なの!?って、これ絶対ゴリラって即答される。あー即答される、絶対間違いねぇ。なんだこれ、なんだこの微妙に悔しい感じ。完全勝利に水差された感じ。試合に勝って勝負に負けたみたいな感じ。
「旦那ぁ、返事は?」
沖田くんが小首を傾げてこっちを見つめてくる。キョトンとした上目遣いに、ごちゃごちゃの考えもすっとんで、胸が飛び跳ねた。
こんな時ばっかり邪気のない表情をしやがって。可愛さ余って愛しさ100倍。
「あーもう!しょーがねぇなー」
がしがしと頭を掻く。
こうなりゃ諸手を挙げて降参だ。
どうしてくれるんだ、オッサンの胸がトキメいてドキドキが止まんねぇよ。責任とれよコノヤロー。
「沖田くんが大好きです。こんな俺をもらってやってください」
「へい、よろこんで」
その満面の笑顔ごと、お持ち帰り決定。
今日は帰さないから、覚悟しておくように!
近藤のためだってなんでもいい。生きててくれればさ。
俺はそんな沖田くんを抱きしめてはなさない―――。
おわり。
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死ネタが書きたくなったんです。
でも途中で辛くなったので夢オチに…。
そしたらこんなバカップルになりました。
タイトルはバンプの曲から。超いい曲v
(2010年9月15日)